モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジを加速する、共通クラウドプラットフォーム「TORO」の実現
- Year joined New Relic
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2022
- Featured Use Cases
利用用途
CCoE主導で開発が進む共通プラットフォーム「TORO」の主要サービスのひとつとして、プロジェクトメンバーがすぐ利用できるNew Relicによるオブザーバビリティ(可観測性)環境を提供
New Relicの選定理由と成果
- 多様なクラウドネイティブアプリケーションの開発・展開を加速させるプラットフォーム「TORO」における、優れたオブザーバビリティ(可観測性)環境の実現
- プロジェクトの円滑な推進のために「ユーザー体験の観測」をTOROの標準機能として提供
- 幅広い機能を全て利用可能なNew Relicのライセンス体系がTOROのサービスモデルに最適
利用機能
- New Relic APM
- New Relic Browser
- New Relic Logs
- New Relic Synthetics
- New Relic Infrastructure
トヨタ自動車株式会社が、全社を挙げて「モビリティカンパニー」へのフルモデルチェンジを加速させている。いま、CASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)と呼ばれる潮流が、様々な技術革新とともにクルマの概念を大きく変えつつある。トヨタは、CASE領域のテクノロジー開発で業界をリードするとともに、「モビリティ」に関わる多様なサービスの開発を全社レベルで推進。より安全で快適なモビリティ社会の実現に向けて、100年に一度と言われる大変革を自ら主導している。先進技術開発カンパニー AI統括室 クラウド・データPFグループ グループ長の馬渕充啓氏は次のように話す。
「クルマをつくる会社から『モビリティカンパニー』へのフルモデルチェンジは、驚くほどのスピード感で進んでいます。注目すべきは、R&D部門だけでなく、全社のあらゆる部門・チームでソフトウェアへの取り組みが加速していることです。自動運転に代表されるクルマのためのソフトウェアだけでなく、『モビリティ』や『デジタル変革』をキーワードにした多様なアプリケーションの開発が活発化しています」
馬渕氏は、R&D組織である先進技術開発カンパニーに所属(2022年11月からデジタル変革推進室も兼務)し、2022年4月にデジタル変革推進室とAI統括室で編成された全社横断的なバーチャルチーム「 CCoE(Cloud Center of Excellence)」のリード役を務めている。
「R&D組織内でのクラウドへの取り組みを全社レベルに引き上げるために、社内のエキスパートを集結させた『CCoE』を立ち上げました。新しいチャレンジを始めたい、新しいアプリケーションを開発したい、というニーズが全社のあらゆる部門で顕在化する中、ソフトウェアの専門家でなくても即座に開発に着手でき、短期間でサービスを立ち上げられる環境を実現することが目的です。より多くのアイディアをよりスピーディに具現化することが、モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジをさらに加速させるものと確信しています」と馬渕氏は話す。
CCoEが2022年より手掛けているのは、より幅広く多様なビジネスニーズに応える共通基盤(クラウドプラットフォーム)の設計・構築である。パブリッククラウド(主にAWS)をベースに、トヨタの全社基準に適合するセキュリティを実装し、迅速なアプリケーション開発が可能なCI/CDパイプラインを構築しているが、さらに進化は続く。
「プロジェクトメンバーにインフラ構築やセキュリティの実装といった負担をかけることなく、安心してアプリケーション開発 ・運用に専念できるプラットフォームの実現を目指しました。見落とされがちな運用段階での負荷軽減と、安定的にサービスを提供し続けるための仕組みも新たに組み込んでいます。アプリケーションの生産性向上(Dev)とリスクの軽減(Sec)を同時に実現する本環境で、『DevSecOps』を実践するための次の重要なピース(Ops)は、DevSecを横断的にカバーするオブザーバビリティ(可観測性)でした」(馬渕氏)
AWSアカウントを最短2時間で払い出せる「TORO」
トヨタの全社基準に適合した開発生産性の高いクラウドプラットフォームは、TOyota Reliable Observatory/Orchestrationの意味を込めて「TORO」と名付けられている。2021年からAI統括室で開発を進めていたプラットフォームをベースに、より幅広く多様なビジネスニーズに応えるプラットフォームとして、2022年4月に本格的な開発が開始された。アジャイル開発やCI/CD、セキュリティ、コンテナ、オブザーバビリティ(可観測性)などのクラウドネイティブテクノロジーに精通したエキスパートが、それぞれ高度な技術力を発揮して数ヶ月で初期バージョンをリリースした。
「TOROは、プロジェクトメンバーがあらゆるビジネスチャレンジにスピード感をもって取り組めるよう、アプリケーション開発と本番運用に必要なリソースや機能を共通基盤として提供します。トヨタ生産方式(TPS)の考え方を採り入れ、プロジェクトメンバーが『正味作業(付加価値を高める作業)』に集中できるようにしました。このように、開発者体験を向上させてプロジェクトが成果を追求できるよう工夫しています」と話すのはCCoEの中核メンバーの一人、内藤孝昌氏だ。
CCoEのメンバーが必要に応じてプロジェクトをサポートする体制も整えられた。TOROにおけるシステム単位での管理者権限は、基本的にはプロジェクト/アプリケーション開発側に委ねられる。
「自働化*1技術が組み込まれたTOROでは、プロジェクトの申請を受けてから2時間足らずで、プラットフォームレベルで準拠可能でトヨタの基準に適合したAWSのアカウントを払い出すことができます。さらに、開発者はアプリケーションのコードをアップロードするだけで、CI/CDパイプラインによってセキュリティ基準に適合したコンテナベースの本番環境を、その日のうちにデプロイすることが可能になります。このスピード感こそ、私たちが実現したかったものです。これは、まさにTPSのジャストインタイムの考え方です。必要な環境を、必要な時に、必要なだけ使える世界です」(内藤氏)
*1「自働化」:トヨタ生産方式の柱の1つで、「異常が発生したら機械がただちに停止して、不良品を造らない」という考え方。人間の知恵を機械に持たせ、機械が止まって問題を顕在化させることから、ニンベンが付いている。
TOROの共通機能である「ガードレール型セキュリティ」「CI/CDパイプラインによる デプロイ自働化」に続いて整備されたのが「オブザーバビリティ(可観測性)」だ。
「アプリケーション開発を手掛けるプロジェクトメンバーが運用監視を行うことを想定し、インフラ視点よりもアプリケーション視点を重視したモニタリング環境を整えようと考えました。New Relicは、クラウドネイティブなオブザーバビリティ(可観測性)ツールとして私たちの要件に合致していただけでなく、他にも様々なメリットを享受できると考えました」(内藤氏)
TOROのOps環境にNew Relicを採用
New Relicは業界を代表するオブザーバビリティ(可観測性)プラットフォームであり、デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にする。アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する機能は業界随一との評価を得ている。
「ユーザー体験を観測しながらアプリケーションの改善に取り組めること、マルチクラウド環境に適用できる汎用性を備えていることが、New Relicの採用を決めた機能面でのポイントです。もうひとつ、 CCoEとして重視したのがライセンス体系でした」と内藤氏は話す。
New Relicは、ユーザー数と取り込んだデータ量でコストが決まるシンプルなライセンス体系で、APM、Browser、Logs、Infrastructureをはじめとする豊富な機能を無制限で使用できる。
「モニタリングの要件はプロジェクトごとに変わります。要件によって機能を選択して個別に契約するような手順では、せっかく作り上げたアジャイルな環境でボトルネックとなってしまいます。New Relicなら、ひとつのライセンスでプロジェクトのあらゆる要求に対応できるため、私たちの求めるスピード感を損ねることがありません」(内藤氏)
前述した通り、TOROでは各プロジェクトに提供するインフラを中心としたデプロイが自働化されている。トヨタ基準のセキュリティに加え、New Relicによるオブザーバビリティ環境も Infrastructure as Code (IaC) による自働化の仕組みが整えられた。CCoEの一員としてCI/CDパイプラインの構築に尽力した村瀬友規氏は次のように話す。
「プロジェクトメンバーは 開発に注力したいので、運用段階での課題や注意事項に意識が及ばないケースがあります。トヨタ生産方式(TPS)の考えをもとに自働化を進める、つまりNew Relicによるオブザーバビリティ環境を最初から使えるようにしておく、というのがCCoEの果たすべき役割です。現在は、デプロイ前後のパフォーマンスをNew Relic上で可視化することで、継続的にアプリケーションの品質向上に取り組める仕組みづくりも進めています」
TORO共通のセキュリティ、CI/CD、オブザーバビリティ
TOROプラットフォームを活用する開発プロジェクトは30以上に達しており、すでに多くのアプリケーション/サービスがリリースされている。CCoEは、TOROの開発フェーズがヤマ場を越えたタイミングで、トヨタ社内外への積極的な情報開示を開始した。
「TOROは、情報システム部門主導の基幹システム向けクラウド環境とも、コネクティッド領域での先鋭的なアプリケーション開発とも違う、より幅広く多様なビジネスニーズに応える環境を目指しています。より多くのアイディアをよりスピーディに具現化すること、そのために必要なリソースや機能をすぐ使える状態で提供することが、TOROとCCoEが果たすべき役割です。プロジェクトが『正味作業』に専念できるよう、TOROの開発者体験を磨き上げていきたいと考えています」と馬渕氏は決意を示す。
「SLI/SLOのスコアを起点に、関連するアプリケーションやリソースのメトリクスを詳細に掘り下げていけるようなNew Relicのダッシュボードのテンプレート提供を進めています。今後はビジネスKPI/KGIをダッシュボードに統合していく計画ですが、これもプロジェクトにとって大きなメリットとなるはずです」と村瀬氏は話す。
徹底的に自働化を進めたTOROの環境では、AWSでの本番環境のセットアップに要する工数を96%削減し、1~2か月を要していた工期を数日に短縮することができたという。TOROの評判は瞬く間に広がり、クラウドネイティブな技術を活用する社員によるコミュニティも活発化している。
「3年以内に、トヨタの全従業員がTOROを知っていて、クラウドを使いたいと思ったときに最初の選択肢になることが目標です。部門ごとのクラウド契約はいずれゼロにしたいと考えています。New Relicは、DevSecOpsのサイクルを実践していくための重要なコンポーネントのひとつです。サービスを作って終わりではなく、プロジェクトにおいて必須の視点である、ユーザー体験を把握しながらアプリケーションとサービスを磨き上げていくプロセスをNew Relicによって効率的に定着化できると期待しています。New Relic社には、モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジに不可欠なこの環境を使いこなすためのアドバイスと技術サポートをお願いします」と馬渕氏は話しつつ次のように加えた。
「モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジを加速させるためには、TOROを通したさらなる開発者体験の向上が必要です。私達の考え方に共感し、新しい技術に果敢に挑戦できるエンジニアの方を募集しています」