IoTデバイスからサーバレスアーキテクチャーまでを観測可能にし、“コネクテッドワーカー”によるDXに挑むダイキン工業

ダイキン工業が、独自の「コネクテッドワーカー・ソリューション」を活用したデジタル変革(DX)に取り組んでいる。サービスエンジニアによる空調機の設置工事・保守点検・メンテナンス等にウェアラブルIoTデバイス “THINKLET™”を活用し、熟練エンジニアがリモートから保守作業を支援する革新的なサービスの開発である。狙いは、国内における空調機保守サービスエンジニア不足の解消、海外市場におけるエンジニアの早期育成だ。その技術開発を担うテクノロジー・イノベーションセンター 情報通信技術グループの片岡太郎氏は次のように話す。

「テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)は、ダイキン工業の研究開発を担う戦略拠点として2015年に設立されました。およそ700名の技術者が集結し、それぞれの専門領域での知見を活かしながら異業種・異分野の技術を持つ組織と連携して、オープンイノベーションによる新たな価値創造に取り組んでいます。私たち情報通信技術グループは、『コネクテッドワーカー・ソリューション』の開発・実用化に向けて東京大学発のベンチャーFairyDevices社と協力しています」

ダイキン工業と東京大学は2018年12月に「空気の価値化」をキーワードに産学協創協定を締結。「ダイキン東大ラボ」を開設し、包括的な共同研究、人材交流、東大関連ベンチャー企業との協業を推進してきた。TICはこの協業で中心的な役割を担っている。

「2019年から取り組んできたFairyDevices社とのプロジェクトが、いま『空調機保守サービス遠隔支援システム』として実を結ぼうとしています。熟練サービスエンジニアと現場のエンジニアを結び、ウェアラブルIoTデバイスを介して動画・音声をリアルタイムに共有しながら、保守サービスの品質向上を可能にします。私たちにとっては『コネクテッドワーカーの創出』というDXへのチャレンジであるとともに、世界を視野に入れた成長戦略のひとつに位置づけられるものです」(片岡氏)

ダイキン工業株式会社

テクノロジー・イノベーションセンター

情報通信技術グループ

片岡 太郎 氏

片岡 太郎 氏

New Relicを採用し、アプリケーション開発・検証・改善を加速

「空調機保守サービス遠隔支援システム」は、保守現場で実際に作業を行うエンジニアが装着するウェアラブルデバイス THINKLET™と、遠隔から熟練のエンジニアが動画や音声を通じて作業支援指示を出すためのWebアプリケーションから構成される。動画や音声、テキスト情報などを処理するバックエンドシステムはAWS Lambdaのサーバーレス環境上に構築されている。現場のサービスエンジニアはウェアラブルIoTデバイスから、サポート役の熟練エンジニアはPCからそれぞれ本システムにアクセスする仕組みだ。システムアーキテクトとしてプロジェクトをリードする前川博志氏は次のように話す。

「遠隔支援システムでは、動画や音声、通話から自動変換されたテキスト、対応履歴など多様なデータを扱います。作業指示を出すWebアプリケーションには遠隔支援に必要な様々な機能を作り込んでおり、現在、国内外で進めている実証実験を通じて現場の声を聞きながら改善を進めています」

New Relicは、この「空調機保守サービス遠隔支援システム」を構成するIoTデバイスからバックエンドシステムまでエンドツーエンドのオブザーバビリティ(可観測性)を実現している。開発・検証段階でNew Relicを採用した狙いはどこにあるのか。前川氏は次のように続ける。

「狙いは大きく2つありました。ひとつは、ユーザーの利用体験に影響するインフラやコードの不具合やボトルネックを特定して迅速に改善すること。本システムでは、ウェアラブルIoTデバイス側に多くのアプリケーションロジックを組み込んでいるため、サーバーサイドのログ監視だけではわからないことが多い。サーバー上で何が起こっているのか、IoTデバイスにどんな問題が発生したのか、アプリケーションプロセスやコードレベルで知りたいというのがありました」

New Relic Mobile がこの ウェアラブルデバイス THINKLET にも組み込まれており、コードレベルでの情報取得と可能にしている。

THINKLET

New Relicが実現するエンドツーエンドのオブザーバビリティは、アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベル低下の原因特定、潜在的な問題・ボトルネックの可視化に威力を発揮する。

「もうひとつは、大規模な本番サービスを見据えた監視設計です。2021年4月からアジア圏で1,000ユーザー規模の実証実験を行います。今後の本番サービス開始に向け、より大規模な環境で高いサービス品質を維持するための仕組みを整備することは不可欠と考えています」(前川氏)

前川 博志 氏

ダイキン工業株式会社

テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)

情報通信技術グループ

前川 博志 氏

事業部門と情報通信技術グループがNew Relic を共通言語に

「空調機保守サービス遠隔支援システム」の実際の業務への適用は保守サービス部門が先行する。さらに、教育、現地調査、設置工事など複数の部門やチームとの検証も進んでいるという。情報通信技術グループは、各ユーザー部門向けにNew Relicのダッシュボードを整備してきめ細やかに要望に応えていく考えだ。開発を担当する上月悠子氏は次のように話す。

「遠隔支援システムの不具合や使い勝手に関して問い合わせを受けたときに、システム側で何が起こっているのか客観的な情報をダッシュボードで示してコミュニケーションを円滑化したいと考えています。また、たとえばユーザー部門からの要求で機能改善を実施したときに、システム使用率やサービスエンジニアの使用体験がどのように変化したかを数値で示すことができれば、改善方針の策定や見直しにも役立ちます」

ダッシュボードの開発は、New Relicの技術支援を受けながら上月氏自身が取り組んでおり、ビジネス視点のKPIが網羅されたユーザー部門向けの画面から、情報通信技術グループで使うシステムの統合監視画面までが整備される計画だ。

ダイキン工業株式会社

テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)

情報通信技術グループ

上月 悠子 氏

上月 悠子 氏

インフラからコードまで、エッジからバックエンドまで可観測性を提供

ウェアラブルIoTデバイス“THINKLET™”にはNew Relicのエージェントが組み込まれ、デバイスの稼働・接続状況やアプリケーションのコードレベルの監視を行っている。デバイスが搭載するアプリケーションの開発を担当する幸浦祐作氏は次のように話す。

「現場で何らかの不具合が発生したときデバイス上のコードで何が起こっているのか、分析の結果を開発側にフィードバックしながら改修を進めていくというのが、開発・検証段階でのNew Relicの主な使い方です。まもなく始まる1,000ユーザー規模の実証実験では、コードレベルでのパフォーマンスメトリクス収集がさらに有益な情報をもたらしてくれるはずです」

New Relicでは、IoTデバイスからクラウドに至る通信経路や、デバイスとバックエンドシステムが連携するプロセス全体を可視化できるため「サービス全体の視点」から改善を進めることができる。

「また、ウェアラブルIoTデバイス自身はモニターやGUIを持ちませんので、デバイス内の様子をリモートから確認することが本来は難しい事情があります。ですから『New Relicなら遠隔から見える』というのは非常に重要です。現場で何らかの不具合があったときに、監視側から問題点を特定して速やかに対処できるプロセスの構築につなげていければと考えています」(幸浦氏)

ダイキン工業株式会社

テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)

情報通信技術グループ

幸浦 祐作 氏

Pioneer MSC

バックエンドのWebアプリケーションはAWS Lambda上に構築されているが、New Relicはサーバーレス環境ではどのように役立つのか。Webアプリケーションの開発を担当する柳浩太朗氏は次のように話す。

「単一のLambda環境に加え、複数のLambdaが連携するシステムで、細かいレベルでトレースデータを収集できるメリットが大きいですね。アプリケーション開発には慎重を期していますが、運用を始めてから不具合が発見される可能性は否定できません。New Relicを活用して不具合が顕在化する前に手を打てることが重要です」

New Relicの導入は情報通信技術グループのメンバー主導で進められた。柳氏は「New Relic Query Language(NRQL)を使えばメトリクスやアラートの設定は実に容易」と話す。前川氏も「導入支援だけでなく、運用開始後もNew Relicの使いこなし方について適切なアドバイスを提供してもらえた」とNew Relicの技術支援体制を評価する。

ダイキン工業株式会社

テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)

情報通信技術グループ

柳 浩太朗 氏

柳 浩太朗 氏

DXの成否は「いかに開発したアプリケーションを体験してもらえるか」にかかる

世界150か国以上で空調ビジネスを展開するダイキン工業にとって、「コネクテッドワーカー・ソリューション」を活用したサービスソリューションの強化は極めて重要な意味を持っている。グローバル市場での更なるビジネス成長は「現地サービスエンジニアの育成」にかかっているからだ。

「新興国を中心に空調市場が大きく拡大することが予想されています。ダイキン工業では、より多くの優秀なサービスエンジニアを育成し、現場のサービス品質を向上させるためにグローバルで『遠隔支援システム』を活用していく方針です。1,000ユーザー規模の実証実験では、国や地域ごとに異なるニーズや課題を明らかにしていきます」(片岡氏)

長年にわたり日本で培ってきた「現場力」を、デジタルテクノロジーを活用してグローバル市場に展開するチャレンジが始まる。

「デジタル変革への取り組みを通じて、『小さく始めて迅速に改善に取り組む』ことの重要性を改めて認識しています。世界を視野に入れると、私たちが日本でスモールスタートさせた『空調機保守サービス遠隔支援システム』という仕組みを、世界中の国と地域ごとに現地の事情に合わせて磨き上げていくモデルが理想的でしょうね」(片岡氏)

さらに片岡氏は、DXにおけるアプリケーション開発の「試行錯誤」の重要性を指摘する。

「私たちの開発したアプリケーションがどれだけ多くユーザーに体験してもらえるか、現場のフィードバックを受けながらいかに改善していくか、そこが勝負です。試行錯誤の頻度を最大化してアプリケーションの有用性を高めながら、私たちもビジネスに貢献する優れたサービスを創造できるエンジニアチームに成長していかなければなりません。私たち自身の変革とダイキン工業のビジネス成長を加速させるツールとして、New Relicの活用をさらに進めていく考えです」(片岡氏)

ダイキン工業株式会社 情報通信技術グループ